「木かげの家の小人たち」 いぬいとみこ作 吉井忠画 福音館書店
小さい頃「だれも知らない小さな国」(佐藤さとる著)が大好きだった。
繰り返し繰り返し、何度も読んだ。
挿絵もシンプルだけど可愛かったなぁ。
コロボックルが生き生きと生活する場所に行ってみたいと思ったし、実際に私が気づかないだけですぐそばに小人は近くにいるんだと思っていた。
想像しただけでわくわくする。
「借りぐらしのアリエッティー」「こびとづかん」「スマーフ」など、色々な物語に小人は出てくるけど、やっぱりコロボックルが一番愛おしい。
この「木かげの家の小人たち」は、図書館のリサイクルコーナーで見つけた。
図書館の本の整理にあたって、古い本を何冊でも持ち帰ってよいですよというのが定期的にある。
この本は、1967年に発行された古い本なので、もう処分されることになったらしい。
私は、このリサイクルコーナーが好きだ。私の地域には古本屋がないので、こういった昔の本との出会いはそうそうない。
この本は、そんな中で小人の話だったので、家に持って帰ることにした。
イギリス人の女性の先生(ミス・マクラクラン)から、教え子の少年(森山達夫)は小人のバルボーとファーンを預かる。小人たちのために、少年は2階の書庫、本棚の一番上と天窓の間の三角のすきまに小人たちが生活できる場所を作る。
毎日、コップ一杯の牛乳を運んであげることで、小人たちはその牛乳で生きていくことができる。
その後、少年は青年となり、結婚し、3人の子供に恵まれる。小人に牛乳を運ぶ仕事は、妻(透子)、長男(哲)、次男(信)、長女(ゆり)へと引き継がれる。
バルボーとファーンの間には、ロビンとアイリスという二人の子供が生まれる。
そうやって平和に暮らしていて森山家だったが、
戦争の始まりによって、
森山達夫は自由主義者という思想性から捕まえられ、
信は家族に反発し、愛国心をもった兵隊になるため学校に通う
ゆりは縁故疎開をした先でも小人たちの世話を続けるが、
段々牛乳が手に入らなくなり、ゆり自身も体調を悪くしていく。
小人たちは自分たちでどうにか生きていくために、工夫しながら生活を続ける。
本の中に、小人のバルボーとファーンが話す場面がある。
ーなぜ、わたしたちはこのままで、しずかに暮らすことができないの?
ファーンはバルボーにたずねました。
ーなぜって、そんなことは「人間」にきいてみなさい!
バルボーは腹をたてていいました。
ーわたしにわかっているのはこれだけだ!やさしかった信の心をあのように変えたもの、信を「愛国者」に変えたもの、それの目に見えない大きな力がわたしたちの平和な暮らしをうばってゆくのだ、わたしたちや下の森山家を暗い谷底へひきずりこんでゆくのだ・・・
やがて戦争が終わるけれど、森山家は空襲で燃えて前の場所はもうない。
小人たちはどのような決断をしたのか・・・
という内容で、戦争によって森山家の生活が一変し、小人たちもそれに翻弄され、
それでも二つの家族が懸命に生きている姿が、とても印象的な物語だった。
作者のいぬいとみこさんは、少女時代に戦争を経験している。
怖かっただろう、辛かっただろう実際の体験が物語に描かれている。
戦争中に自分が敵国の妖精を愛し続けていたこと、それを後ろめたく思っていたこと、そういった気持ちもこの物語にこめたそうである。
確かに物語の中には、兄の信から「敵国の小人に、牛乳を与え続けようとするなんて非国民だ」と言われてゆりが思い悩む場面がある。
ゆりに母の透子夫人は、こう伝える。
ー信もゆりも知らないでしょうけど、おおぜいの人がみんなでまちがいをするってこともあることなのよ。「お国のために」というりっぱな言い方で、「えらい」ひとたちがみんなでまちがったことをするってことがね・・・わたしだって、おとうさまのことがなければ、信のように「お国」を美しく考えていられたかもしれない、けれどもひとりの自由な人間を危険だといってとじこめておくようなお国が、どんなにまちがっているか、はじめてわたしは知ったのよ・・・・・
平和になり、このような作品をいぬいさんが発表できる時代になったことを本当にうれしく思うし、今なお戦争が起きることがなく、自由にこの本が読めていることもうれしく思う。
情報統制というのは本当に怖い。思想性を咎められるなんて絶対に嫌だ。
けれど、おおぜいの人がみんなでまちがいをする、「えらい」ひとたちがみんなでまちがったことをするっていうことが、今後もあるかもしれない。
それを間違っていると、国民が止められる国であってほしいと思う。
いぬいさんは、女学校卒業後、保母さんをしていた経験もある。児童文学にすることで、より多くの子供たちに思いを伝えたかったのではないだろうか。
初めは、小人の出てくる本だぁ~と思って読み始めたけれど、平成が令和に変わっていく今、戦争と平和について今一度考えることができて、この本と巡りあえて本当によかったと感じた。
最後に、この本は書き出しの言葉からして、とても美しかった。
人はそれぞれこの地上のどこかに「だれもゆけない土地」を持っています。その人自身のいちばんたいせつな、愛するものの住んでいる「ふしぎな土地」を。
ある人はサハラ砂漠の真ん中の、砂と砂とが作り出した小さな谷あいに、「だれもゆけない土地」をもっていました。そこは、その人と星からやってきた小さい王子さまと、バラの花と一ぴきのキツネのほか、けっしてだれもゆくことのできない「ふしぎな土地」でした。・・・・つづく
「だれにもゆけない土地」「ふしぎな土地」は、おばあちゃんになっても、ずっと持ち続けていたい。